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疾患情報

2023.12.22 手外科・外傷

更年期以降の女性に多い手指の疾患

女性に多い手指の疾患

女性に多い手指の疾患は、ヘバーデン結節、ブシャール結節、腱鞘炎(ばね指、ドケルバン病)、手根管症候群、母指CM関節症が挙げられる。(図1)

1.ヘバーデン結節、ブシャール結節

ヘバーデン結節は母指から小指の第一関節(DIP、母指ではIP関節)、ブシャール結節は、人差し指から小指にかけての第二関節(PIP関節)が変形する疾患である。変形のほか、腫れや痛み、こわばり等の症状を伴う。また、粘液嚢腫(ミューカスシスト)と呼ばれる水ぶくれができることもあり、痛みを伴うため、強く握る動作が困難になり日常動作に制限がかかる。鑑別すべき疾患として、変形やこわばりと似た症状である関節リウマチは、第一関節で発現することはなく、第二関節や第三関節(MP関節)に発現することが特徴である。そのため、関節リウマチとブシャール結節との鑑別が必要となる。血液検査やレントゲン検査、超音波検査を行い鑑別する。ヘバーデン結節、ブシャール結節の原因は解明されておらず、40代以降の更年期を迎えた女性に多く発症する傾向にある。手指の酷使、加齢、女性ホルモンの分泌量の低下等が主な要因といわれている。
初期症状であれば、テーピングによる固定や薬物投与などの保存療法を行い、痛みの軽減をめざす。保存療法で症状が改善しない、変形が進行している、粘液嚢腫が生じている等の場合は手術が適応される。状態に応じて骨棘切除術、粘液嚢腫切除術、関節固定術、シリコンを使用した人工関節術等を行う。またブシャール結節において、ばね指が原因で浅指屈筋腱の変性により第二関節の圧が高まることが原因と考えられる場合は、ばね指の治療(腱鞘切開術や浅指屈筋腱切除術)を行うことで改善がみられる。

 

2.腱鞘炎(ばね指、ドケルバン病)

腱鞘炎は、骨と筋肉をつないでいる腱と腱を包む腱鞘と呼ばれる組織に摩擦が生じて、炎症や腫れが起きる疾患である。その内、指の屈筋腱と滑膜性腱鞘に発症する腱鞘炎をばね指という。炎症で腫れた腱鞘に炎症によって肥厚した腱が引っかかり、指を伸ばそうとしたときにカクンとばねのように勢いよく伸びる状態になるのが特徴である。指を曲げたり伸ばしたりした際に、手のひらや指の付け根に痛みが生じる。キーボード操作等で長時間手指を酷使することが要因だが、更年期や妊娠・出産期といった女性のホルモンバランスの変化も関与しているといわれている。
初期症状であれば、局所を安静にすることやストレッチを行うことで、改善をめざす。痛みが強い場合は、ステロイド注射や抗炎症剤等の薬物療法を行うことで炎症を鎮静化する。ただし、ステロイドの種類によっては、副作用として腱断裂が起こり指が全く動かなくなるリスクもあるため、安全に十分配慮したうえでの使用が必要となる。これらの保存療法で改善がみられない場合は、腱鞘切開術が適応となる。
一方で、手首側にある短母指伸筋腱と長母指外転筋腱が通るトンネルになっている滑膜性腱鞘に腱鞘炎が発症するものがドケルバン病である。通常長母指外転筋は2-3本あり、また短母指伸筋腱との間に隔壁が存在することがあり、炎症によってさらに短母指伸筋腱のトンネルの空間がさらに狭くなるため、腱の滑走が妨げられ、炎症が生じて痛みや腫れが頑固に続く。親指を動かすと手首の親指側が痛み、手関節を尺屈するとさらに傷むのが特徴である。
ばね指同様、保存療法を進めても改善がみられない場合は腱鞘切開術を行う。隔壁があれば隔壁の切開も同時に行わなければ術後の改善はみられない。また、ばね指手術後は一次的にむくみで第二関節の動きにくさを感じることもあるが、リハビリを行うことで徐々に改善をめざしていく。

 

3.手根管症候群

手根管症候群とは正中神経が圧迫されることで神経症状が生じる疾患である。手根管は手根骨と横手根靱帯で囲まれた管で、その中を1本の正中神経と指を動かす9本の腱が滑膜性腱鞘と伴って走行している。何らかの原因で横手根靱帯が炎症を起こし腫れることで正中神経が圧迫されると、手根管症候群を発症する。手のしびれや痛みの症状が、特に朝方  強くみられることが特徴である。また、更年期の女性に多くみられるが、日常生活や仕事で手指を酷使する場合にも発症しやすい傾向がある。
手がしびれるときに疑われる疾患として、脳梗塞や頸椎疾患、糖尿病等も挙げられる。これらの疾患は、手以外にも身体の片側や足等にも症状が現れるのに対し、手根管症候群は親指から薬指の親指側の3本半だけがしびれ、小指にはしびれが生じない。手根管症候群は症状が進行すると、親指の付け根が痩せて、親指と示指でつまむ動作(OKサイン)等が困難になる。
初期段階の治療は安静にすることや、必要に応じてサポーター等の装具を着用する。しびれや痛みが強い場合は、炎症鎮静剤やステロイドの手根管内注射等の保存療法を行う。保存療法にて症状の改善がみられず、神経伝導速度検査(神経障害の程度を客観的に調べることができる検査)の結果で神経伝導速度が重度に低下している、または親指の付け根が痩せ始めている等の場合は手術が必要になる。手術は内視鏡を用いた鏡視下手根管開放術が低侵襲で主流となってきている。従来の直視下手根管開放術に比べて切開範囲が小さく日常生活への早期復帰も可能である。また局所麻酔で行うため、術中に患者と話をしながら患者自身に痛みが生じないか確認しながら手術を進めることができ、神経損傷を防ぐことができる。(図2)

4.母指CM関節症

母指CM関節症とは、掴む・握る等の親指の力を必要とする動作においてCM関節に痛みが生じる状態をいう。CM関節はペットボトル開封動作など軸圧が罹りやすく、日常生活において負担を受けやすい部位であるため、関節軟骨の摩耗が起きやすい。進行すると関節が腫れ、亜脱臼して親指の変形がみられる。主な原因はCM関節の酷使や加齢だが、女性の場合はホルモンバランスの変化も影響があるとされている。
初期症状であれば患部を安静にすることが重要で、テーピングや固定装具等によりCM関節にかかる負担を軽減する。固定装具は布製のほかシリコン製のものもあり、装着感や利便性に応じて選択可能である。また、投薬や関節内注射等も有効である。痛みが強く、亜脱臼を伴う高度な関節の変形や、スワンネック変形(親指の白鳥の首変形)が起こっている場合は手術が適応される。関節鏡下による部分切除関節形成術が可能で、傷んだ軟骨や炎症の元である滑膜を切除し緩んだ靱帯を補強するため人工靱帯で修復を行う。

 

女性特有の手指疾患とエストロゲンの関与

更年期に手指の不調が生じる要因の一つとして、女性ホルモンであるエストロゲン分泌の減少が考えられている。エストロゲンは女性の生殖機能を支えるほか、皮膚や骨、内臓、筋肉、脳、血管等ほぼ全身の臓器や組織の細胞において様々な作用をもたらしている。閉経前後の更年期等、エエストロゲンの分泌量が減少すると、血管運動神経症状、精神神経症状、知覚神経症状、運動器官への症状等が現れる。
これらの症状の緩和には、ホルモン補充療法や漢方薬が挙げられるが、セルフケアの一つとして近年注目されている成分にエクオールがある。エクオールは代謝産物でエストロゲンと似た化学構造式を持ち、閉経前には抗エストロゲン作用、閉経後にはエストロゲン様作用を示すことが知られている。エクオールは食品成分でありながら、ホルモン補充療法に変わる対処法の一つとして有用である。

 

エクオールによる手指の不調の対処法

エクオールを腸内で産生できる人の割合は日本人の約50%といわれている1)2)。また、腸内で内産生できる場合でも、通常の食生活の中で十分な量を産生できない可能性も示されている。
エクオールは、1日あたりの摂取目安量が10mgであり、ホットフラッシュの改善や骨密度低下の抑制などの効果が確認されている。一方で、エクオールは体内に留まることができないため日々摂取することが望ましい。エクオールを効率よく摂取するために、エクオール含有のサプリメントを活用することも可能である。
先ほど述べた手指の疾患に対しても、エクオールの摂取で症状が緩和することがわかってきている。これまで手指症状は加齢によるものとされ、適切な対処がされていないことが多かったが、エクオールの効果に期待が高まる。ただし、手指の変形や痛み、しびれ、こわばり等の症状が進行している場合よりも、症状の程度が低い初期段階に摂取することで効果がより期待できる。また、ヘバーデン結節や手根管症候群等を予兆する症状が複数みられる場合にも、初期症状であればエクオールの摂取により改善が期待される。

医療機関受診の目安

手指の痛み、しびれ等の症状には関節リウマチや脳梗塞、糖尿病といったほかの疾患が原因となる場合もある。そのため、何らかの不調を感じた際は早期に医療機関を受診することが大切である。手指の不調は整形外科、特に手外科専門医(手の怪我や病気を治療する専門医)の受診が好ましい。内科的疾患が要因であっても診察や検査において脳梗塞等の発見が可能である。そして初期段階の症状であれば、エクオールの摂取やリハビリで対処できる可能性がある。物を掴みにくい、握りにくい、字が下手になった、痛みやしびれがある等の場合は整形外科、特に手外科の早期受診を推奨する。

 

最後に

痛みやしびれに関する内服治療薬は様々な種類があるが、副作用にも注意が必要である。患者に処方する際は、用法・用量だけではなく副作用についての説明も十分に行っていただきたい。手指の不調について患者から相談された場合は、整形外科、特に手外科の早期受診を推奨していただくことをお願いしたい。

 

【文献】

  • 麻生武志 他. 日本女性医学学会雑誌 20: 313-332, 2012.
  • 内山成人. 更年期と加齢のヘルスケア 7: 26-31, 2008.

 

 

 

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